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賞金の罠 それ一時所得?

2021年夏に東京オリンピック、2022年冬に北京オリンピックが開催されましたが、来年2024年にはパリオリンピックが開催予定とのことで、あっという間という気が致します。各スポーツ団体においても選考の大会が実施され、誰が代表者になったかという話を聞くようになってまいりました。
今回はオリンピックが近いこともあり、スポーツだけではなく様々な大会で個人が受け取る賞金が、一時所得・雑(事業)所得のいずれに該当するのか?について解説していくことに致します。

国税庁HPの質疑応答事例に「マラソン大会の賞金・褒賞金の課税関係」として所得分類の考え方が示されております。
従来、賞金と言えば一般的に一時所得と考えられていたものですが、その考えに対する注意喚起としてオリンピック前に提示したものと思われます。
この質疑応答事例を読み込むと、所得分類の判定に当たっては賞金の特性からアプローチするという従来的思考より、資金の流れ(主催者)をキッチリ解明する必要性を感じます。
質疑応答事例ではマラソン大会とあるようにスポーツ大会について述べておりますが、「スポーツ」「大会」という名称に限定されるものではなく、趣味のものや、コンテスト、イベントという名称でも賞金が出れば同様の取扱いとなります。また、賞金支払者が公益法人等に限定されるものではなく、株式会社であっても何ら変わりません。
ネットで検索してみますとゲーム大会などのeスポーツの他、釣りやサバゲー、漫画、俳句、童話、焼肉・ラーメンなどの料理、カラオケ、映像など様々な大会賞金があることが分かります。
もちろん国内・国外どこで開催されようとも賞金を受け取れば課税の対象ですし、名称の如何で一時所得か雑(事業)所得かを判断することは誤りやすい事例と言え注意が必要です。
特に賞金支払者から受け取った書類に一時所得と記載があったとしても、記載者が税金のプロである保証は全くありません。誤っているケースもありますから、慎重な対応が必要になります。

それでは具体的に確認していきましょう。
まず、オリンピックについてですが、これは全額又は上限額の範囲で非課税とされておりますが、これは賞金の特性(国民感情等考慮)から非課税とされた経緯がございます。
質疑応答事例は賞金の特性ではなく資金の流れを見ておりますから、どのような流れになっているのかを確認する必要があります。特に支払い理由・性質が同一の記録更新を讃える賞金であっても、主催者か否かで所得分類が異なると明示している点は注目すべきところです。
それでは東京オリンピックを例に賞金が何所得に分類されているのかを見ていくことに致します。
東京オリンピックの主催者が誰であるかですが、この主催者の判断が重要になります。東京オリンピックはIOC(国際オリンピック委員会)が主催者です。JOC(公益社団法人日本オリンピック委員会)でも東京都でもありません。
次に賞金がどの団体から選手に支払われているのか?これは「オリンピック競技大会及びパラリンピック競技大会優秀者顕彰規程」に定められており2パターンあります。ひとつはJOC、もうひとつはJOC加盟団体。JOC加盟団体とは日本水泳連盟や全日本柔道連盟、日本スケート連盟など老舗スポーツ団体はもちろん、日本サーフィン連盟や日本山岳・スポーツクライミング協会など東京オリンピックから初参加となる団体も加盟しております。
つまり、オリンピックの賞金は主催者のIOCではなくJOC(公益社団法人日本オリンピック委員会)やJOC加盟団体が金・銀・銅を獲得した選手に交付しているのです。
ここで国税庁の質疑応答事例に戻りますが、主催者以外から支払われる賞金は「JOC又はJOC加盟団体が金・銀・銅メダルを獲得した選手を表彰するために支払われるものであり、JOC又はJOC加盟団体に対する役務の対価として支払われたものとは言えず、また継続して支給されるものでもないことから、一時所得に該当します。」と読み替えることが出来ます。
次に各スポーツ団体で開催される世界大会を見てみましょう。これは各団体ごとケースバイケースとなりますので、賞金の流れをしっかり追わなければなりません。
例えばAというスポーツ競技の国際A連盟が世界大会の主催者だとします。毎年各国で大会を開催しますが、各国のA連盟(主催者以外)が日本の連盟を経由して入賞者に賞金を支払うのであれば一時所得になりますが、国際A連盟(主催者)が日本の連盟を経由して入賞者に賞金を支払うのであれば雑(事業)所得となります。支払調書が日本円だと一時所得と勘違いしてしまいますが、現地通貨で日本の連盟を経由して支払われるケースがありますから、その点は注意が必要です。
質疑応答事例に当てはめますと「主催者である国際A連盟から支払いを受けた賞金は、国際A連盟に対する役務の対価又はその役務に付随して取得するものと認められることから一時所得には該当せず雑所得に該当する」と読み替えられます。

最後に運動とは異なる釣りやゲーム大会を例にしてみますと、主催者は釣具メーカーやゲーム制作会社であると考えられますが、中には他のスポンサーからの賞金もあるでしょう。
この場合、一つの大会賞金であっても主催者のメーカーから支払われる賞金は、主催者に対する役務の対価又はその役務に付随して取得するものと認められることから雑(事業)所得、他のスポンサーから支払われるものあれば一時所得に区分されることになります。

社長の自宅は個人と法人、どちらの所有が有利? 消費税還付

社長が自宅を購入するにあたり、個人で所有した方がいいのか、法人で所有した方がいいのか相談を受けることがあります。
この疑問につきましては、法人税、所得税、消費税、相続税、社会保険と5つの金額をシミュレーションした上で判断することになります。
サラリーマンの方であれば、法人を所有しておりませんから選択の余地はなく個人所有の一択となり、ローン控除や譲渡損失の繰越控除、買い換え特例を適用すべきか3,000万円特別控除を適用すべきか判断をすることになります。
それに対し、法人が所有している場合、個人では経費とならない修繕費等が経費計上されるほか、相続財産の対象外ですから社長の所有する株式のみ相続対策を講じればよいことになります。
消費税については令和2年10月1日以後より原則として購入した居住用の建物を有償により社長や従業員に貸し付けている場合、残念ながら還付の対象とはならなくなってしまいました。
この改正部分を読み誤ると、社宅は一律消費税還付されないものと勘違いしてしまう方もいらっしゃいますが、実際には一定の要件を満たせば未だに消費税が還付されます。税抜き5,000万円の建物購入だと500万円の消費税が還付されますから、やはり一番インパクトが大きいと言え、弊所でも実際に令和2年の改正後に消費税還付の実績があります。
法人税で気をつける所は、社宅を借り受けることによる経済的利益の発生の有無。ある場合にはその金額。定期同額給与として損金算入されるための要件を満たすこと。
法人税法上の役員給与となる場合、社会保険料や源泉所得税の金額計算をしなければなりません。
さらに申告後、税務署から社宅に関する規程等の提出を求められますので、事前に整備する必要がありますので、その点ご注意ください。

令和5年度税制改正大綱

与党税調による令和5年度税制改正大綱が12月16日に公表されました。
個人や中小企業者等に関係する改正事項のうち、特に気になるものをまとめておきましたが、本年も相続税・贈与税につきましては、抜本的改正はなされておらず、消費税についはインボイス制度がメインとなりますが、税理士会等からの指摘や要望に基づき修正したものも何点か見受けられました。どうも消極的で付け足しや妥協による改正が目につき、いつものことですが、より税務判断が複雑化して一般納税者には分かりづらい改正になってしまったように感じます。
また、書面からデータ化への過渡期でもあり難しい局面であることはよく分かりますので、検討事項にあった下記の整備につき期待したいところです。これは税務会計に限定されるものではなく、日本全体のあらゆる事象に関わる問題と考えます。
「帳簿等の税務関係書類の電子化を推進しつつ、納税者自らによる記帳が適切に行われる環境を整備することが、申告納税制度の下における適正・公平な課税の実現のみならず、経営状態の可視化による経営力の強化、バックオフィスの生産性の向上のためにも重要であることに鑑み、記帳水準の向上、トレーサビリティの確保を含む帳簿の事後検証可能性の確立の観点から、納税者側での対応可能性や事務負担、必要なコストの低減状況も考慮しつつ、税務上の透明性確保と恩典適用とのバランスも含めて、複式簿記による記帳や優良な電子帳簿の普及・一般化のための措置、記帳義務の適正な履行を担保するためのデジタル社会にふさわしい諸制度のあり方やその工程等について更なる検討を早急に行い、結論を得る。」

1、個人所得課税
災害に係る損失の繰越控除制度の見直し
 被害が極めて甚大で広範な地域の生活基盤が著しく損なわれ、被災前のように生活の糧を得るまでに時間を要するような災害の被災者や被災事業者に特に配慮する観点から、特定非常災害法上の特定非常災害による損失に係る雑損失及び純損失の繰越期間について、損失の程度や記帳水準に応じ、例外的に3年から5年に延長する措置を講ずる。

2、資産課税
(1)相続時精算課税の見直し
① 相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、現行の基礎控除とは別途、課税価格から基礎控除110万円を控除できることとするとともに、特定贈与者の死亡に係る相続税の課税価格に加算等をされる当該特定贈与者から贈与により取得した財産の価額は、上記の控除をした後の残額とする。
②相続時精算課税の下で受贈した財産の価額は、相続税の課税価格の計算上、贈与時点の時価で固定されるが、土地・建物について、災害により一定以上の被害を受けた場合には、例外的に、相続税の課税価格を再計算する。
(2)生前贈与加算の期間の見直し
 相続又は贈与により財産を取得した者が、その相続の開始前7年以内(現行3年以内)にその相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合には、その贈与により取得した財産の価額(その財産のうちその相続の開始前3年以内に贈与により取得した財産以外の財産については、その財産の価額の合計額から100万円を控除した残額)を相続税の課税価格に加算することとする。

3、消費課税
適格請求書等保存方式に係る見直し
(1)適格請求書発行事業者となる小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置
①適格請求書発行事業者の令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間において、免税事業者が適格請求書発行事業者となったこと又は課税事業者選択届出書を提出したことにより事業者免税点制度の適用を受けられないこととなる場合には、その課税期間における課税標準額に対する消費税額から控除する金額を、その課税標準額に対する消費税額に8割を乗じた額とすることにより、納付税額をその課税標準額に対する消費税額の2割とすることができることとする。
②適格請求書発行事業者が上記①の適用を受けようとする場合には、確定申告書にその旨を付記するものとする。
③上記①の適用を受けた適格請求書発行事業者が、その適用を受けた課税期間の翌課税期間中に、簡易課税制度の適用を受ける旨の届出書を納税地を所轄する税務署長に提出したときは、その提出した日の属する課税期間から簡易課税制度の適用を認めることとする。
(2)1万円未満の少額仕入れに係る税額控除
 基準期間における課税売上高が1億円以下又は特定期間における課税売上高が5,000万円以下である事業者が、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間に国内において行う課税仕入れについて、その課税仕入れに係る支払対価の額が1万円未満である場合には、一定の事項が記載された帳簿のみの保存による仕入税額控除を認める経過措置を講ずる。
(3)支払手数料の値引き問題への対応
 売上げに係る対価の返還等に係る税込価額が1万円未満である場合には、その適格請求書の交付義務を免除する。

4、納税環境整備
加算税(加算金)制度の見直し
無(不)申告加算税(金)の割合(現行:15%(納付すべき税額が50万円を超える部分は20%))について、納付すべき税額が300万円を超える部分に対する割合を30%に引き上げる。

密漁・産地偽装、生物資源保護にインボイス制度・デジタルインボイス(peppol)は役立つか

対象となる生物の範囲が広くなってしまうため、今回はアサリやワカメの産地偽装問題、アワビやイセエビの密漁問題、クロマグロやスルメイカの不正漁獲問題で何かと騒がれている水産物を中心に考察していくこととします。なお、改正漁業法の罰則規定以外の資源管理規定等に関しては、その実効性に見通しが立っていないこと、IUU漁獲物(違法・無報告・無規制の漁獲物をいう)の流入防止のための輸入規制に係る特定第二種水産動植物(サバ、サンマ、マイワシ、イカ)の海外輸入物については、税務署ではなく税関・水産庁の管轄となるため、今回は検討対象とはしておりません。

1、近時の水産物に関する制度改正・新法制定の流れ
平成30年に漁業法が改正され、令和2年12月1日より「特定水産動植物:アワビ・ナマコ・(シラスウナギは令和5年12月1日より)」については、原則として採捕してはならないとされ(漁業法第132条第1項2項、漁業法施行規則第41条、42条)、違法に採捕しただけではなく違法に採捕されたものと知りつつ運搬・保管・取得・仲介等をした場合にも、3年以下の懲役又は3000万円以下の罰金が科されることになりました(漁業法189条)。
さらに、前回の「免税販売手続の電子化」により消費税免税制度を悪用した脱税を捕捉できたように、水産物に関しても、これに似た法律として「水産流通適正化法による電子化」が今年の令和4年12月1日に施行予定となっております。
水産流通適正化法の制定目的としては、漁獲段階での規制のみならず、加工、流通段階で違法な漁業に由来する水産物を排除する仕組みの構築が必要であることから、国内において違法に採捕された水産動植物(違法漁獲物)の流通の適正化を図ることに加え、海外において違法に採捕された水産動植物の輸入の適正化を図り、もって違法な漁業の抑止及び水産資源の持続的利用に寄与し、漁業、加工流通及びその関連産業の健全な発展に資するためとあります。そして、その効果として①違法漁獲物を国内流通から排除することができ、改正漁業法の罰則強化と相まって、密漁等の非漁業者による法令違反件数が減少し、持続的な水産資源の利用が可能となる。②違法漁獲物の国内市場への流入を防ぎ、信頼できる水産物のみが取り扱われ、流通することとなるため、流通事業者、加工事業者等の取り扱う水産物の信頼性の向上、取引の円滑化に寄与する。③海外からの違法漁獲物の流入を防止することにより、違法漁獲物の国内市場流通への悪影響が排除され、適正な国内市場環境の実現が図られるとしています。
電子化に向けた取組としての漁獲情報等デジタル化推進事業については、以下の対策と目標が掲げられております。
対策として、改正漁業法の施行による漁獲報告の義務化に伴い、漁獲情報を電子的に収集・提供することを可能とするシステムの早期現場導入を支援。また、水産流通適正化制度の円滑な実施に向け、関係する漁協等が漁獲番号等を迅速かつ正確・簡便に伝達することを可能とするための電子システムの導入等を支援。
目標として、①主要な漁協・市場からの漁獲情報を電子的に収集する体制を整備(令和5年までに400箇所以上)。②特定第一種水産動植物の密漁件数を半減することとしております。

2、改正及び新法制定に至った経緯
水産庁資源管理部管理調整課沿岸・遊漁室の報告によると、近年、悪質な密漁が問題となっており、特にアワビ、ナマコ等は沿岸域に生息し、容易に採捕できることから、密漁の対象とされやすく、組織的かつ広域的な密漁が横行しているとのこと。また、資源管理のルールを十分に認識していない一般市民による個人的な消費を目的とした密漁も各地で発生しており、令和2年では漁業者による密漁より漁業者以外による密漁者の検挙件数が5倍以上になっているそうです。これら密漁は、漁業の生産活動や水産資源に深刻な影響を与える行為であることから、水産庁は密漁に対して厳正に対処し、密漁防止活動に取り組むとしております。
水産関係につきましては、漁業法の大改正と新法施行という長年の課題であった問題に重い腰を上げて取り組み始めた水産庁には感慨深いものがあります。水産学部生であった三十数年前は、流通での不正はトラフグなど国内流通がメインで輸入物はここまで酷くなかったと記憶しております。シラスウナギも今ほど高値ではなかったため、河口でのシラスウナギ漁をするための電灯が川面に照らされている様は冬の風物詩とも言えノンビリした時代でありました。
さすがに漁業資源の枯渇や管理の必要性、後継者問題、絶滅危惧種に対する世間の意識変化や国際的協調の流れから動かざるを得なかった面もあるのでしょうが、電子化により捕捉できる技術が発達したことも大きいと言えます。

免税販売手続の電子化概要

水産流通適正化制度について
密漁の状況、非漁業者の検挙件数、罰則規定、電子化に向けた取組

密漁を許さない

3、漁業関係者(漁業・養殖業)が密漁者等から購入する場合
輸入品ではなく国内漁獲物に関する密漁又は産地偽装、盗難の捕捉をテーマに考えた場合、インボイスを通じて税務署側が確認出来るのは、流通段階に乗ってからとなります。
したがって、漁業関係者が海上又は内水面で自ら採捕した漁獲物ではなく不正に取得した漁獲物だとしても、自ら採捕したと主張すれば、不正の立証をすることは困難といえます。
この場合、漁業関係者が密漁者等から購入しているわけですから、これを仕入金額として経費計上するか否かで2通りの対応となります。
① 経費計上する場合
密漁者が適格請求書発行事業者としてインボイス制度の登録申請をするとは思えませんので、税務調査が入らない限りは表に出ません。小規模事業者の場合は尚更調査対象とはなりづらいでしょうから時効となる可能性が高いです。
ただし、税務調査が入り、その領収書がない場合、又は領収書記載の相手方が反面調査によっても判明しない場合は、消費税では仕入税額控除、所得税・法人税では経費計上が否認され重加算税の対象になる可能性があります。
② 経費計上しない場合
そもそも計上しておりませんから法人税や所得税の負担が大きくなりますが、税負担を上回る利益が出るほど高値で売れるのであれば、経費計上しなくとも問題ないという考えの場合、経費計上しない方法も想定されます。消費税に関しては簡易課税制度がとれる課税売上高5,000万円以下であれば、みなし仕入率を用いて仕入税額控除を計算できますから、このケースでも税務調査が入らない限り表には出ません。
※横流し品の価格が正規ルートの価格決定に影響を及ぼしている現状もあるため、不相当な高値になっているのは問題といえます。

以上より、直接海上又は内水面で採捕することを生業とする漁業関係者が購入者の場合、インボイス制度は効果がないということが考えられます。

4、流通業者が漁業関係者や密漁者から購入する場合
上記1記載のとおり採捕する漁業関係者のみならず、運搬・保管・卸売・小売・加工業者等についても厳罰化されました。
罰則対象となる運搬・保管・卸売・小売・加工業者等についてですが、これは漁獲物のトレーサビリティを進める水産流通適正化法(令和4年12月1日施行予定)により不正の排除が期待されます。
EU向けの水産物輸出に関しては漁獲証明書が必要なため、既にトレーサビリティシステムが導入されております。したがって、日本で出来ないわけがありませんが、未だ現金取引がメインでオンライン決済やデジタル化が遅れている市場関係者が対応できるのかが心配の種ではあります。成田の市場や豊洲の関係者から話を聞いても、デジタル化に関心が薄いようで良くわかっていない状況と聞いております(ソフト会社は営業によく来るそう)。まだ、特定第一種水産動植物の対象がアワビとナマコの2種類(シラスウナギは令和7年12月1日より)と数が少ないことから致し方ない面はありますので、当面は水産庁がどこまで指導力を発揮するのか見守るしかないでしょう。
特定第一種水産動植物にかかる論点

免税販売手続の電子化については提供先が国税庁でしたので、購入記録情報が免税店から入ってきて不正が一気にあぶり出されました。
IUU漁獲物(違法・無報告・無規制の漁獲物をいう。)の流入防止のための輸入規制に係る特定第二種水産動植物(サバ、サンマ、マイワシ、イカ)の海外輸入物については税関が適法漁獲等証明書を確認出来るとあります。
したがって、余りに制度がうまく進展しないようであれば、IUU国内漁獲物についても購入記録情報を水産流通適正化法により水産庁や都道府県に報告するだけではなく、国税庁へ報告する仕組みにすれば、インボイス制度と相まって、違法漁獲物の流通に関しても捕捉しやすいのではと考えます。
免税販売手続の電子化前は中国人観光客や留学生から免税品を購入した首謀者を国外逃亡させてしまったケースがほとんどでしたが、その代わり購入者をターゲットにして還付させない方針へ国税当局はシフトしておりますから、水産流通適正化法による電子化とデジタルインボイス(peppol)により輸出される違法漁獲物に係る脱税や消費税還付もいずれ出来なくなるのではと思われます。

5、インボイス制度導入下での消費税制問題
それではインボイス制度がどれほど精緻な制度なのでしょうか。実際のところ、違法漁獲物の流通防止には、まだまだ抜け道が残っている状況。以下、問題を列挙していきます。
※法人税や所得税の計算にあたっては、当然に真実の請求書がなければ仕入金額を計上したとしても否認されます(ただし、税務調査により発覚した場合)。
① 事業者免税点制度 消費税法第9条、9条の2
② 漁協、卸売市場経由の委託販売 消費税法施行令第70条の9第2項第2号
③ 簡易課税制度 消費税法第37条第1項、消費税法施行令第57条
④ 平成28年改正法附則第52条第1項経過措置の8割控除の当分の維持
⑤ 取引金額3万円未満の仕入税額控除の存置 消費税法施行令第49条第1項

① 事業者免税点制度とは基準期間(又は特定期間)における課税売上高(又は給与支払額)が1,000万円以下の事業者をいい、消費税の納税義務が免除されます。よく消費税は益税の問題があると言われるのは、この制度があるためです(③の簡易課税制度も同様)。
インボイス制度により売り先からインボイス制度の登録申請をしてほしいと言われるケースも増えると想定され、これにより免税事業者であった者が課税事業者として納税義務者がある程度増えることは予想されます。
国税当局も当然それを見込んでいるわけですが、それであるならそもそも事業者免税店制度を廃止すればいいのではと思われるかもしれません。税理士会でも全国で意見が統一されているわけではありませんが、課税の公平性や中立性の観点からも消費税法の9条や9条の2の廃止や一定額の税額控除、1,000万円の金額を下げるなどの意見も出ております。それでは国税当局としてなぜ改正に動かないのかと言うと、明言しづらい部分ではございますが、政治的な意図が働いていたり(消費税に敏感な小規模事業者である有権者の意向等)・税務署の事務処理が増大するため廃止は勘弁といった本音もあったりします。世の中そうは上手くいかないものです。
したがって、インボイス制度が開始されても登録申請しない免税事業者に関しては、違法漁獲物の仕入販売に対する抵抗感は薄いものと予想されます。

② 漁業関係者が漁協や卸売市場に委託販売している場合はインボイスの発行を求められないため、免税事業者はこれまでの取引通りでよいことになります。これは市場における流通の迅速化や漁業関係者の事務処理の簡便性の観点から致し方ないとも思われますが、水産流通適正化法の電子化によるトレーサビリティが進めば、優遇する必要性はなくなるかもしれません。
したがって、現状におきましては、インボイス制度が開始されても漁協や卸売市場に委託販売する場合、違法漁獲物の仕入販売がなされる可能は高いと予想されます。

③ 簡易課税制度を採用している場合、インボイス制度の登録をするしないにかかわらず、購入者側に関してはインボイスを発行してもらわなくとも仕入税額控除が出来ます。
したがって、違法漁獲物を購入した場合、インボイスでなくとも問題ないことから違法漁獲物の仕入がなされる可能は高いと予想されます。

④⑤ 6/6付けで日本税理士会連合会より5/26に「インボイス制度の円滑な導入・実施について」とした次の要望が決議され、関係機関へ提案をしましたとの通知がありました。
イ 免税事業者が市場取引から排除されることを防止するため、平成28年改正法附則第52条第1項の経過措置を当分の間維持すること。
ロ 事業者等への過度な負担を避けるため、現行消費税法施行令第49第1項第1号(少額取引)の取扱いを存置し、請求書等の保存の有無にかかわらず帳簿のみの保存で仕入税額控除を認めること。

・平成28年改正法附則第52条第1項の経過措置の概要
インボイス制度導入後3年間(令和8年9月30日まで)は、免税事業者等からの課税仕入れの80%については仕入税額控除ができる。
・消費税法(抄)
第30条
7 第1項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(同項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が少額である場合、特定課税仕入れに係るものである場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ、特定課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかったことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない。

・消費税法施行令(抄)
第49条 法第30条第7項に規定する政令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
一 法第30条第1項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円未満である場合

以上より免税事業者から仕入れる課税事業者は、インボイス制度導入後も当面の間80%は仕入税額控除が出来ること、また、1回の支払金額の合計額が3万円未満(税込)である場合には、帳簿への記載で仕入税額控除が出来ることになります。
これが実現するか否かを明言しているサイトは1つだけ知っておりますが、様々なルートからの意見を勘案すると、私見ではございますが、ほぼ実施されるのではと考えております。実現すればインボイス制度が導入されても免税事業者が取引から排除されるリスクを減らすことが出来ますし、また、従前通り3万円未満は税額控除できるため利便性の低下を防ぐことも出来ます。
しかし、これにより少額な違法漁獲物を仕入れても税額控除が可能となってしまいます。
さらに個人的に気になるのは、日本税理士会連合会の提案が現行消費税法施行令第49条第1項第1号(少額取引)の取扱いだけ存置し2号を省いていること。インボイス制度の実施に伴い消費税法基本通達11-6-3も廃止予定であるため、これがなくなると例えば身近な事例でいうとネットオークションで購入した商品に係る仕入税額控除は出来なくなってしまいます。ある意味なくなればネットオークションを利用した盗難・密漁品の購入を事業者は見合わせる可能性がありますのでいいのかもしれません。ただし、事業者がネットオークションで購入した商品を仕入税額控除するのに、古物商許可証を取得するなど対策すれば古物商特例・質屋特例が活用でき、結局のところ盗難・密漁品の購入につながるため、出品は減らない可能性があります。

6、終わりに
以上、検討してまいりましたが、インボイス制度も水産流通適正化法もまだ施行されておりませんから、追加や訂正の整備は今後もなされていくものと思われます。現場のシステム導入は相当大変だとは思いますが、導入して終わりではなく、その後の使用に関するサポートを重要視して頂きたいところです。
水産庁や国税庁、そしてデジタル庁が従来の縦割り組織を改め、水産流通適正化法による電子化、デジタルインボイス(peppol)を通じて一致協力し情報をやりとりするようになれば、違法漁獲物のロンダリングによる消費税の脱税や不正還付の抑止、希少生物の保護、漁業関係者の後継者問題は解消されていくものと考えます。

消費税免税制度の悪用問題、令和4年度税制改正、インボイス制度

1月末に国税庁課税部法人課税課より、「消費税還付申告に関する国税当局の対応について」として税理士会へ以下の告知依頼がありました。

消費税は、輸出免税や免税店における免税販売が主要な事業である場合、ないしは高額な設備投資を行った場合などに、還付申告書を提出することで還付金を受けることができる仕組みとなっています。
消費税の還付申告の中には各取引に関する課税取引や非課税取引といった区分の誤りや固定資産等の取得時期の誤りなども見受けられます。
このため、国税当局としては、各種情報に照らして必要があると認められる場合は、還付金の支払いをいったん保留しつつ、還付申告の原因を確認するため、行政指導として電話等による確認書類(例えば、還付申告の主な原因が輸出免税である場合には輸出許可通知書やインボイス等の写し、設備投資である場合には契約書や請求書等の写しのほか、取引実態の確認できる資料)の提出をお願いすることや、実地調査を実施する場合もあります。
また、還付申告の原因の確認に当たっては、個別具体的な各種の事情に応じた対応を行うことから、例えば、課税仕入れや免税取引等の相手方と連絡が取れないことなどにより取引の実態の確認が困難である場合や、取引に係る金銭授受の事実確認が困難なである場合、輸出等に係る証拠書類が適切に保管されていない場合などにおいては、それらの確認に時間を要し、還付を保留する期間が長期にわたる場合があります。
国税当局としては、可能な限り速やかに上記の実態の確認等に努めるとともに、これらの結果、還付税額が過大と認められる事由がないことが判明した場合には、遅滞なく還付を行うこととしていますので、納税者の皆様のご理解とご協力をお願いします。
以上の依頼を日本税理士会連合会等にしたようです。

そもそもの発端を探ると、免税店が購入記録やパスポート情報を国税庁に電子送信する免税手続きの電子化が2020年4月から一部開始されたことによります(2021年10月より完全電子化)。従来、免税店には購入記録票の作成や購入者誓約書の保管義務(7年)があり、事務負担と管理コストの増大が問題とされ、外国人旅行者ら非居住者は購入者誓約書の提出と購入記録表の税関への提出が義務付けられ、手続の煩雑化という問題を抱えておりましたが、これら免税品を海外へ持ち込んだと仮装し消費税を不正に還付する者や国内で転売する者が相当数いるとして問題視されていたようです。

大阪国税局がこの電子記録をもとに、大阪市内の百貨店から免税品を大量購入している中国人の税務調査を実施したところ、輸出を証明する書類がなく免税の要件に該当しないとして1,400万円の徴収処分をしました。
また、名古屋国税局においては、中国系の貿易会社らが輸出売上や免税売上と仮装した上に、架空仕入をしていたとして、消費税5億円の課税処分をしました。

大阪国税局や名古屋国税局等において輸出免税制度や免税品を利用した消費税に関する事件が発覚したことにより、全国規模で一斉に消費税還付に係る行政指導又は税務調査が実施され、半年以上の期間にわたり還付が実行されないことによる納税者・税理士とのトラブルを避ける意味から国税庁課税部より周知依頼があったものと思われます。

以上の経緯もあり、令和4年度税制改正大綱において、消費税改正がなされております。
外国人旅行者向け消費税免税制度(輸出物品販売場制度)について、次の見直しを行う。
・輸出物品販売場において免税で購入することができる非居住者(以下「免税購入対象者」という。)の範囲について、出入国管理及び難民認定法別表第一の在留資格を持って在留する非居住者については、短期滞在、外交又は公用の在留資格を有する者に限ることとする。
・免税購入対象者が行う旅券情報の提供等は、デジタル庁が整備及び管理をする訪日観光客等手続支援システムを用いて行うことができることとする。
・免税で購入された物品を輸出しない場合に消費税の即時徴収等を行う場合の税関長の権限について、税関官署の長へ委任できることとする(令和4年4月1日以後適用)。

令和4年度税制改正大綱では、外国人旅行者等に向けた消費税免税制度について輸出物品販売場において免税で購入することができる非居住者の範囲として外国人留学生らが除かれ、短期滞在者や外交官などの在留資格を有する者に限定されました。
実行した外国人留学生らに非があるのは当然ですが、営利のみ追求して免税要件の確認を怠った免税店や税関に問題はなかったか?

消費税法は過度な節税対策を防止する改正を上書きし続きてきたため整理の必要はありますが、インボイス制度は様々な分野において存在する「抜け道」なるものを通用しなくさせる可能性を秘めております。
それは盗難や偽装、生物資源保護に関して顕著と言えます。
次回、これらにつき記載していくことに致します。

消費税還付申告に関する国税当局の対応について
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0022001-098.pdf

輸出物品販売場における輸出免税について
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/menzei/201805/0523.htm

令和4年度税制改正大綱
https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/news/policy/202382_1.pdf